ある街の高台に佇む幸福の王子像。
サファイアの瞳と金色の身体に飾られ、人々に愛されたこの像が、冬のある夜なみだを流して憂えたのは、平和にみえる街の中にも、恵まれない境遇の者がいることを知ったためだった。
時間を忘れて一本の葦と戯れていたため、南へ発つのが仲間よりも遅れてしまった一羽のツバメとともに、救いたい何かのため自己をも犠牲にしていく、それゆえ「幸福」な王子の話。
自身を飾る宝石によってしか貧困者を救済できない点に、私はやや不満と彼の不幸を感じる。
しかし、訳者も「あとがき」で語っているように、葦と遊ぶツバメ、決して消滅することのない鉛の心臓などについて深く思慮を巡らせることで、人が社会の中に身を置くかぎり心のどこかで考え続けなければならない永遠のテーマに触れられる。
社会を知ったつもりになっている我々大人にも、もう一度必要な、そんな図書だろう。
オスカー=ワイルド・作
小野忠男・編訳 井上ゆかり・絵
薦めたい学年:2年生〜3年生半ば
0 件のコメント:
コメントを投稿
ご意見・ご感想、お待ちしております。