読書も学びも積み上げていくもの



 読書も学びも、積み上げていくものです。
 各書籍の紹介ページに、「薦めたい学年」を記載しましたが、読書は何も焦る必要がないので、下から順に積み上げるように薦めてあげて下さい。 一生かけて良いものをゆっくり読んでいけばいいのです。
 「うちの子は読めるから」は多くの場合、過信です。 教室でこどもたちと接していても、入室当初から問題なく読書できる子は少ないもの。その上、きちんと矯正してあげなければ、いつまでも悪い癖が抜けません。 冊数と時間とを無駄に重ねてしまうというのが、一番怖いことです。
 ここに記した「薦めたい学年」を参考に、皆さまには適切な選書とお子様方への直接の本紹介そして、ときどき内容確認をお願いしたいところです。 まずは「当サイトの眺め方」をご覧ください。



ころべばいいのに

自分がされてイヤなことをしてくるようなあの人も、イヤなことを言ってくるこの人も、みんな石につまずいてころべばいいのに。と、そんな風に考えながら、初めこそ、頭の中に復讐方を描いたり、人を憎む自分、可哀想な自分の慰め方を浮かべたりしていた少女だったが、次第にその感情(イヤな気分)自体と向き合いはじめる。

・たとえるとしたら「とつぜんのどしゃぶり」みたいなものだろうか……
・お風呂に入ってスッキリするなら、それは体の外側につくものなのか……
・イヤな人の“イヤなところ”も一部かもしれない、理由があるのかもしれない……
・もしかしたら、人をイヤな気持ちにして喜ぶネガティブな何者かに、私がまんまと乗せられているだけなのかもしれない……

でも、そんな試[考]錯誤にも「それしかないわけないでしょう」。まだまだ様々に向き合い方はあるはずで、この先も考え続けて、イヤな気持ちに正しく対峙できるようになりたいと少女は思うのだった。

ヨシタケシンスケ・作

薦めたい学年:読み聞かせ Level 4
読み聞かせにかかった時間:8分

誰かキライな人がいる、何人かいる、そんなときに支えとなる聖人のような正解………ではなく、どのように向き合って“その時”を過ごせばより善いか、生き方・考え方・やり過ごし方を、豊富な例で示してくれるのが本書です。
もしも色々試しながら、あんなキライもこんなキライも乗り越えてみたら、いつか聖人のような正解が自分の生き方になっているなんてことがあったりして。

ものごとの“対象化”がテーマになっているため、発達段階に鑑み、小学校高学年以上を対象とせざるをえない難しさがあります。
しかしながら、正しく読み与えられれば、あるいは悩める大人にとっては、生きづらさを少しだけ解消するヒントになる、そんな一冊です。

今回の女の子は、誰の力も借りず、助けとなるような言葉ももらわず、進んだり立ち止まったりしながら、自分の周囲も内側もよく観察しながら、一人でひとまずのゴールまで歩きます。
こどもたちには難しいところもありますが、これはあくまでも“発想えほん”。少女が通ったヨシタケシンスケ流を真似るも、あえて自分流を探すも、読むあなたの自由なのです。「イヤ」を思いっきり考えてみましょう。


おめでとうのさくらまんじゅう

春になると見事に花をつける学校の桜の木は、そのすぐ傍に店を構え続ける和菓子屋のしょうきちじいさんが、小学生のときに植えたものだった。
若くして亡くなってしまった我が子たいちさんの入学祝いにと、その桜の花びらを使い、しょうきちじいさんがかつて作ったさくらまんじゅうは、悲しみを乗り越えて、入学式を迎えた新入生たちに配られるようになった。
新入生の数に合わせて、作るおまんじゅうの数は年々減っても、しょうきちじいさんは今も春を迎えるたび、たいちさんと晴れの日のこどもたちのために、さくらまんじゅうを作り続けるのだった。

西本 鶏介・文
野須 あき・絵

薦めたい学年:読み聞かせ Level 2 (入学時期)
読み聞かせにかかった時間:5分

新小1や低学年のこどもたちへ、春に読んであげたいと思える絵本なのですが、一つだけ気になる表記があります。
息子を亡くした当時のしょうきちじいさん家族を描いた中に「たいちさんのあとを追って死にたいとさえ思いました」というような表記があるのです。
これを読むとき、「どんなにつらく悲しくても、死んではいけないんだよ。悲しみが繰り返すだけだから。しょうきちじいさんも、その後生きがいを見つけたでしょう。でも、それだけ悲しいできごとだったということなのだろうね」と添えるようにしています、私は。
その点だけ読む側に配慮が必要かなと個人的には思いますが、短いお話に一人の人生が凝縮され、あたたかみに溢れた一冊でした。


もくもくをつかまえた

きみが見つけた“もくもく”は、どうにも思い通りにはいかないもの。
大事に抱えていたくても無くならないようしまっておきたくても上手くはいかないし、付き合い方も丁度いい距離のとり方も難しい。
でも、“もくもく”はもくもくしたいだけだから、もし見つけたら「どうしたいのか」を一緒に考えてあげればいい。

ミカエル エスコフィエ・文
クリス ディ ジャコモ・絵
ヨシタケ シンスケ・訳
原題:Si tu trouves un nuage (仏)

薦めたい学年:読み聞かせ Level 3
読み聞かせにかかった時間:3分

「もくもくは そらと じめんのあいだで
 きょうも もくもく してるんだ。」
英語版が見つからないので、ヨシタケシンスケさんによる翻訳にしか目を通せていませんが、この一文がとても気になりました。
もくもくは、大地に根をはるものでもなさそうですし、昇華したものとも言えないようです。 とにかく、手が届くようで届かない、そんなところに、もくもくもくもく、停滞する何か。
この抽象的な“何か”に、こどもたちはどんな具体的モノゴトを当てはめられるでしょうか。 授業で使ってみるのが楽しみです。 本文自体は容易ですが、内容から小学校3・4年生への読み聞かせをオススメします。


ひろったらっぱ

身寄りもなく貧しかった若者は、偉くなりたいと思い、西の方で起こっている戦争で手がらを立てようと考えた。
西に向かって乞食をしながら歩いた彼は、あるとき目覚めて手元にラッパを見つけたことから、戦場でラッパ手になることを決意するのだが、さらに歩みを進めるうち、戦争が人々を苦しめているのだと知ると、戦場へ行くよりも苦しむ者たちをラッパで元気づけて畑を元に戻すべく、皆を先導するようになった。
すると、人々も馬や牛と一緒に畑へ出てせっせと働くようになったので、まいた種からはやがて芽が出て、野原一面に麦の生るときが訪れたのだった。

新見南吉・文
鈴木靖将・絵

薦めたい学年:読み聞かせ Level 3
読み聞かせにかかった時間:7分

新美南吉は「ごんぎつね」「手袋を買いに」が日本の教科書会社全てで40年以上採用され続けているただ一人の作家です。
日本人なら新美南吉の名前を知らない人はいないと言えるほどの童話作家だということですね。
ラッパって、士気を発揚する行軍のための楽器にもなれば、もっと広く応援のため・楽しむためにも用いられるものですね。使い方次第。ここにも新見南吉のアイディアが光ります。


みけねえちゃんにいうてみな

なぜだか最近自身を「うーちゃん」と呼ぶようになった小学2年生の息子ともくんを理解できないお母さんと、母を敬遠しているようなともくん、そんな二人の間を取り持つべく、この家のネコ・みけねえちゃんは、まず“「うーちゃん」の秘密”を探ろうとする。
頑ななともくんの態度を少しずつ諭して和らげ、その理由が宿題のため尋ねた“名前の由来”を教えてもらえなかったことへの抵抗なのだと知ると、次にみけねえちゃんはお母さんの説き落としに移ったのだが、一方のお母さんにも、一人抱え込んでいた(ともくんの)お父さんとの別れの記憶があった。
双方の胸の内を知ることができたみけねえちゃんは、彼女の見聞きした事情だけを伝えてともくんを見守ることにしたが、ともくんがたくましくもお母さんを守る宣言までして仲直りしたので、とても安心したのだった。

村上しいこ・作
くまくら珠美・絵

薦めたい学年:2年生後半~3年生
物語・63ページ

タイトルと同じセリフ「みけねえちゃんにいうてみな」が「みけねえちゃんがいうたげる」に変わるときの、なんとも頼もしいこと!その頼もしさがラストのともくんの姿にも重なります。
チャット文化の若者間にも見られる1対1の関係性への執着が、物事を難しくすること、よくありますね。
そんなときに、みけねえちゃんのように橋渡ししてくれる人がいたら問題が問題でなくなることもある。それが忘れられたり、煙たがられたりしているこの頃に、本作は大事な示唆を与えてくれている気がします。