二つの国の境あたりの小屋でひっそりと生活しながら、寂しさも悲しみも知らずに夜な夜な泥棒を繰り返していた男が、ある夜盗みに失敗し、何とか一つだけ持ち帰った小箱には、鉢植えが一つ入っていただけだった。
何の値打ちもないと考えながら、芽を出したそれに不覚にも興味を抱いた彼は、植物の成長に喜びさえ覚えるようになり、畑で育てた自慢の野菜を町へ売りに行くほど、知らず知らず夢中になっていった。
ある時、仲たがいしていた二か国間で争いが起こったことで、男の畑や小屋は巻き添えを食い壊滅したのだが、その時までに大きく成長し白い花をつけていたあの鉢植えの果てた姿を目にして彼は、生まれて初めて大声で泣いたのだった。
杉山としひこ・文
ふくだじゅんこ・絵
薦めたい学年:読み聞かせ Level 2
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