病弱なうえ、不運も重なって、楽しいことも日焼けのあとも一つとしてないまま夏休みの終わり8月31日を迎えた純は、大好きな恐竜図鑑を眺めて眠りについたところ、いかにも原始的で、荒々しいパワーにみなぎる9月0日の世界に迷い込み、そこで同じように退屈な夏休みを過ごしその世界に飛び込んできたクラスのアイドルの女の子や、無口で乱暴者だと避けられている男の子と出会い、ともに冒険をはじめる。
そして、何千万年も昔と思われる、まるで空想の世界のような、しかし常に死ととなり合わせの環境のなか、幾度か迎えた危機や極限状態を乗り越えることで、それまで気が付いていなかったような“本当の自分”をそれぞれ見せながら、三人は互いをより身近に感じ合うようになっていく。
それは、人が大人になるにつれて、うそやでたらめ、夢などと思い込んで片づけてしまうような説明のつかない世界で、生きている実感にいやというほど向き合いながら得た、夏休み40日分に匹敵する大きな一日だったのである。
以下は、文庫版巻末に掲載されている芥川賞受賞作家・綿矢りさ氏の解説からの抜粋(2ヶ所)です。
「3人それぞれが人間くさく、弱い。(中略)冒険するお話は、冒険するメンバーがそれぞれの特質を生かし敵をたおすパターンが多い。しかし実際にど素人がいきなり不思議な世界に飛び込んだら、ピンチのときはみんなあわてるし、意見が合わなければ口論になるし、なにか良いきざしが見えればみんなよろこび、奮起する。(中略)その感じが、この9月0日の世界ではとてもリアルだと思う。嘘のない人間どうしのぶつかりあいをする彼らが、しだいに結束してゆくようすが、魅力の一つだ。」
「同じクラスでも接点のなかった彼らが、それぞれの個性を生かし協力しあうことで、自分一人でできる以上のことができるようになると知る。そういうのって大切だなとおとなになってからこそ思う。クラス全員で大縄跳びを跳ぶとか、クラス全員で二人三脚をするとか、ときどきテレビで放映しているけれど、ああいう連帯責任的団結力はなにかまちがっている気がする。たがいを知ることで認めあい、みんなちがう生き方をしながらそれでも力を合わせるほうが、のびのびできるし、本物の絆ができる。」
さとうまきこ・文
田中槇子・絵
薦めたい学年:小学4年生~5年生(夏休み)
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