下半が魚であるということ以外、姿かたちや感情は人間とほぼ変わりないのにもかかわらず、他の獣と呼ばれるものたちとともに海の深くに押し込められている身の上をなんとも悲痛に感じていたある妖娠(みもち)の人魚は、うわさに聞く人間の優しさ、情け深さを信じ、せめてもの思いから、子を陸地に産み落とすのだった。
漁を生業としている島にあって、その安全を祈念する者たちに蝋燭(ろうそく)を売っていた老夫婦は、それを拾い“神の示し”だとして大切に育て上げたが、いつしかその気持ちも薄れゆき、また見世物にすることを考えた旅の香具師(やし)にそそのかされたこともあって、大金と引き換えに彼女を売ってしまう。
自身が美しく魚の絵付けを施した蝋燭が、お宮へ捧げられたあと、燃えさしを持ち帰った者に「災難知らず」の幸をもたらすと評判になったことで、それまで老夫婦に恩返しをしてきた彼女は、その身が売られたことを知ると、深い哀しみから23本の蝋燭を赤く染め上げたが、人魚として彼女が売られていった夜以降、何者かがその蝋燭を宮へ納めるたびに島の者が災いに見舞われるようになり、ついに島ごと亡んだのであった。
首都圏では20年ぶりとも言われる降雪、その只中で、このお話のモデルとなった日本海側の漁村をイメージしながら、小川未明の文章から感じた冷気と、酒井駒子さんの絵が背負っていた重苦しさを思い出し、レヴューしてみました。
小川未明・文
酒井駒子・絵
薦めたい学年:読み聞かせ Level 4
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